住宅のブランド品とは?

コロナ禍になる前に仙台市泉にあるアウトレットモールへ行く機会がありました。当時、私は新しい名刺入れが欲しくてモール内にある『コーチ』のメンズ店に入りました。入店する時に店員さんから『50%OFF』の割引券を渡され、案内されるまま名刺入れコーナーに行ったのですが定価を見てビックリ! 値札に¥28,000-とあったのです。私にとっては高額過ぎて「ダメだ、こりゃ!」と思い、コーナーから離れようとしたら店員さんから「今日は半額ですよ。」と声を掛けられました。割引券の事を言っているのだと思い「半額でも手が出ませんよ。」と返すと、コーナーの上に掲げてある『50%OFF』のボードを指さして「割引券を使えば更に50%引きになるんですけど、それでもお高いですか?」との事。つまり半額の商品を更に半額で売ると言っている訳です。定価で28,000円の名刺入れが7,000円で買えると言う事が分かり、すぐさま購入に至りました。既に割引が掛かっている商品は割引券の対象外となるのが一般的なので、この破格な値段には驚かされました。

購入直後はお買い得感で満たされていましたが、後になって「75%引きでも利益が出ているのであれば、一体この名刺入れの原価はいくらなのだろう?」という疑問が湧いてきました。いくら割引キャンペーンでも有名ブランド店が赤字で売る事などは無いでしょう。もし定価で売れていたら利益率は75%以上になる訳ですから、『ブランド』の力とは名も知られていない企業からしてみれば「羨ましい」としか言いようがありません。仮に25%OFFで売ったとしても利益率は50%以上も有るのですから、大幅な値引きがあっても何の不思議も無い訳です。このような事例は名刺入れに限らずブランド品を扱う世界ではよくあるケースだと思います。

では住宅業界でも同様な例はあるのでしょうか?

値引きの件だけで言えば「少なからず有ります」。但し、それは利益率の高い大手・有名ハウスメーカーに限る話であり、上記のようなパーセンテージの値引きは皆無でしょう。

また「ブランド」という観点で言えば、実は住宅にはブランド品というもの存在しないと私的には思っております。バックや財布に腕時計、更にはクルマなどなど、頭に「高級」が付くものはほとんどがブランド品と呼ばれるものです。住宅にも「高級住宅」と呼ばれる建物は存在しますが、他のブランド品とは決定的に違う点があります。住宅以外のものはブランド会社がオリジナルで設計し、徹底的に管理された工場で製作されます。ですから全く同じものがいくらでも製造可能です。そして必ず商品にはブランド名かマークが刻印され、お洒落なショップで販売されます。この刻印されたモノを所有する事で購入者は心を満たされる訳です。
しかし、住宅の場合は設計はオリジナルでも工場で組み立てられ完成するものなどは一棟たりとも存在しません。管理はされているとは言え一棟一棟全て違う建築条件下で造りますし、製作に携わる人間も全て違います。ましてや家の外壁などに住宅会社の社名やマークが刻印される事など決してありませんし、お洒落なショップで陳列される事もありません。

住宅の場合、有名な住宅会社が造った建物をブランド品と思われている方が非常に多くいらっしゃると思いますが、実際に中身を比較すると中小の住宅会社の建物とそんなに変わらないというのが実情です。システムキッチン、ユニットバス、サッシ、玄関ドア、室内ドアや便器など住宅は数えきれない程のパーツで構成されていますが、そこの仕様に大きな差は無く、完成すればどこの住宅会社が造った建物かなど一般のお客様には判別できません。住宅のパーツ全てを大手ハウスメーカーがオリジナルで作っているはずもありません。全てそれらのパーツを作っているメーカーから部品を取り寄せて現場で組み立てているだけです。その過程に住宅会社の大小は関係なく、多少作り方に違いはあれどお客様から見ればほとんど同じ作り方であり、ほとんど同じパーツで構成されているのが一般的な住宅なのです。

と言って、大手ハウスメーカーも中小の工務店も十把一絡げでは大手に対して失礼になります。大手の強みとは何か?いろいろ有るでしょうが、私から言わせると一番は『商品開発力』の違いだと思います。例えば地震に強い免震構造の家や水害に強い家などの開発・商品化は中小の工務店が束になっても出来るものでは有りません。なので、こういう大手でしか作れない特別な住宅を希望される方は大手ハウスメーカーに行かれた方が良いかと思います。