震えた日①

【2021年2月2日の火災事故】
今年の2月2日は124年ぶりの「節分の日」として記憶に残る日であったが、個人的には全く違う意味で記憶に残る日となった。ちょうどお昼の12時にそれは突然起きた。事務所に佐川急便さんが配達に来られた際に配達員の方が「隣の隣の家から凄い煙が出てますよ!」と言われた。「えっ!」と驚き、慌てて外へ出ると、その家の1階部分からおびただしい白煙と炎が見えた。「これはヤバい!」と思い、出火元の隣地(我が家の畑)に駐車してあった自家用車に向かって走った。車に行こうとする私に誰かの「危ないから行くな!」と制止する声があったが、それを振り切って車に乗り込みエンジンをかけた。間一髪セーフで運良く私と車に被害は無かった。

車を自宅の駐車場へ移動してから事務所前に戻ると、近隣住民と地元の消防団員ら大勢の人が集まっていた。バリケードが事務所前に張られ事務所に戻る事が許されず、皆と火事の様子をただ見ているしかなかった。強い北西の風に煽られ、ほんの数分で炎はまるで急成長するかのように勢いを増していった。時折小規模な爆発音と共に大きな火の粉や真黒く焼けた何かが空を飛んで行く。とにかく消防車の到着が遅く感じた。本当は迅速に動いてくれていたかも知れないが、その場に居た多くの人は「消防車はまだか。」と口々にしていた。それくらい火の回りの速さが早すぎて、消防車の到着を「まだか。まだか。」と遅く感じていた。

ようやく消防車が到着した時が火災のピークだったように思う。主屋2階の屋根を貫き、炎が天に届くが如く燃え盛る。同時に北西の風は一層強まり、傍観者の顔にも炎の熱が伝わった。事務所の隣家のお母さんが泣いている。「自分の家も燃えてしまう。」と言いながら泣いている。その場に居た者であれば、その気持ちは痛いほど理解できる。なぜならば本当にそうなるかもしれないと思えるほど強烈な火災だったからだ。かく言う私も事務所への延焼の可能性を感じた。それは今までに感じた事の無い全く違う恐怖感である。そう感じた時に心臓の鼓動が聞こえ、身体が小刻みに震えてくるのが分かった。

人生の中で火災現場は何度か見た事はある。しかし、それはいずれも自分とは無関係の災害であり、少しの恐怖は感じても身体が震えるまでに至った事はない。自分の身近で火災が起こったのは初めてであり、火災がこんなにも恐ろしいものである事を改めて知らされた。

消防車からの放水が開始され、しばらくすると徐々に炎が沈静化していく。頭の中では「もう大丈夫。」と思っても、気持ちや身体の反応が伴わない。やがて火は見えなくなり、火災現場は白い水蒸気で覆われて何も見えなくなった。時計の針は13時半を回っていた。自宅に戻り、しばらくの間家族全員がボーっとしていた。自分が起こした火災では無いのに動悸が止まらない。食べていない昼食を口にするまで更に1時間半掛かった。遅い昼食を取った後に事務所に戻ると家屋内に異臭が漂っている。木材を燻したような火事独特の臭いだ。延焼を免れただけ運が良かったと思えば、臭いくらい我慢出来るものだ。